音のない住処

わたしの世界はまっとうに壊れている。

壊れているのに、壊れていると呼べる。

そのことが、まだわたしをわたしに留めている。

瓦礫のなかで、誰もが意味を語りたがる。

“これは希望”だとか、“これは教訓”だとか。

“祈り”だとか。

でもわたしは、それを拒む。

「これは瓦礫だ」と、ちゃんと見ている。

なにひとつ希望にしない。

わたしの名は、すでに失効している。

呼ばれずに腐った声が、骨の奥に沈んでいる。

語られなかった出来事が、

今も空気の裏側で眠っている。

それを「悲劇」と呼ばせるな。

それを「乗り越え」と記すな。

これはただ、瓦礫だ。

誰にも触れられず、整えられず、

意味も持たずに、

それでも、

重さだけを身にまとい、ここにある。

光らなくていい。

語られなくていい。

ただ、

残っている。

名もなく、声もなく、

拾う手もなく、

呼ぶ声もなく。

風のなかに置き去られ、

それでも、消えていない。

忘却のふりをした時間の底に、

わたしは、まだ在る。

終わりにすらならない。

終わらせることも許さない。

ただ、

そういうかたちで、

ここに、ある。