孤独につけこむ街で

背広を着た

社会が望む姿になろうとした

笑顔を張り付け

流れる日常に紛れ

ネクタイを締め

社会が望む姿になろうとした

他人の不幸で幸福を映し

幸福で他人の不幸を隠し

程度の善いことばを耳飾りにして

白衣を着た

社会が望む姿になろうとした

無数の影が交錯する喧騒の中で

自明のことのように行われる優勝劣敗に

歓喜し

言葉を飲み込み

嗚咽をはいて

ヘルメットを被り

社会が望む姿になろうとした

空っぽな広告が

冷たい鉄とガラスが

血のようなネオンが

黒く染まった空気に滲み出しても

底のあさいひらひらの良心を

少しばかりの偽善心で満足させては

安全靴を履いて

社会が望む姿になろうとした

汚れた手で

野卑に

淫らに

いくつもの光を奪い

舌の尖端で唇をうるおし

絶望を増殖させ

長靴を履いて

社会が望む姿になろうとした

声なき者たちが

夜の冷たさに押し流され

誰かの足音に踏まれ続けていても

美しいニッポンと地球のために

エンプロンを着て

社会が望む姿になろうとした

嘲笑のように輝くビル群がそびえ立ち

ただ無言で高く見下ろしていても

ハートウォーミング・ドキュメンタリーのように

はげましあい

安全ベルトを締め

社会が望む姿になろうとした

日々を生きるために役割を演じ

街の一部となって

腐りかけたコンクリートの中で

革靴を履いて

社会が望む姿になろうとして

なれなかった者たちの

その存在と比在の境界近くで

自分だけが望む姿になろうとした

社会が望んでも望まなくても

ひとつの塊となってよこたわる

どこまでも奇態で病的な

ひとという生き物への

想像を閉ざして

社会が望む姿になろうとした