雨時々曇 

香川さぬき市亀鶴公園(京都八十八)

“ぼうけん”のはじまりはどこからか。

そのきおくの蒼い袖先も掴めないまま、

8:50京都発

高松行きの高速バスにのる。

途中、車内ですこし居眠り

目覚めたとき、車窓から、

東浦の町並みがみえ、

その向こうに海が見えた。

美しい町。

すこし胸が高鳴ったようにおもう。

12:00高速さぬき三木BSで下車して、

今にも降り出しそうな雲行きのなかを歩く。

1時間ほど歩いたあたりで小雨が降りだす、

肩も痛い。

足も痛い。

雪駄で行けると思ったが甘かった。

花輪がこすれ、親指と人差し指の間がずきずきと傷む。

足のほうまで「人さし指」と呼ぶことにも違和感がある。

帰りたい。

帰りたくなったら、いつでも帰れる。

その気持ちのまま、もう少しあるく。

雨が激しくなりだしたとき、

パーキングスペースをみつけた。

自販機と屋根まである。

しばらくやすむ。

コーラがのみたい。

がまんして水筒の水をのむ、

まだコーラが飲みたい。

150円でコーラを買う。

靴に履き変え靴下を履き、また歩き出す。

途中、まばらにつき出した稲穂と

濡れた路面のにおいに、

まだ幼かったときの記憶が蘇るが、

もう歩けない。

たった1300kmのうちの9.2kmを

3時間もかかって歩いた。

ぐったり疲れた。

お腹も空いた。

近くの大きな湖の傍の公園でテントを張る。

べっしょりと濡れた衣類を干し、

煙草を巻き、珈琲を飲む。

そろそろ米を炊こうと水に手を浸したとき、

ふたりの警察官がやってきた。

「なにしてるんや」と警察

「お遍路です」とぼく

「どっからきたんや」と警察

「京都です」とぼく

「これあかんわ」と警察

公園の東屋にさした

ぼくの充電器を指差す

「すみません」とぼく

「窃盗やな」と警察

「記申書かいて」と警察

「はい。」とぼく

「内容考えるからちょっと待って」と警察

「書いたものを記録として写真とらしてもら

っていいですか?」とぼく

「そらあかんわ。」と警察

「どうしてですか。」とぼく

「そうゆうもんとちゃうから」と警察

「どういうものですか?」とぼく

「警察署まで来てもらうことになるけど?」と警察

「書きます!」とぼく

「ほな追い剥ぎに合わんように気をつけや」と警察

腰にぶら下げられた

たった一発の鉛が

冷たい現実を助長さしていくようで

怖かった

ひととの出会いがあたたかいと聞いた遍路で

出会ったはじめてのひと。

前途多難か

大丈夫。

こういうことには慣れている筈。

 自分の思い込みと過ちを知ったひ

 置き忘れていた”ぼうけん”の危険なにおいが

    鼻をくぐり幼い夏の香りとなる

 入りくむ入道曇は行先をふさぎ

 いっそう影をおとし垂れ込んでゆく

 つけたみずの冷たさ

 皮膚はみなそこにねじ込む

 オオサンショウウオの背中にたちながら

 ヨチヨチとあるく

 歪に尖った石や穏やかな丸い石を

 痛い苦しいと踏みしめながら

 よろよろになって

 音楽になる寸前の言葉をさがし

 置かれた境界を跨いでいけ