冬物の中から
着られそうなセーターを見つけて
匂いを嗅いでみる
作家別に閉じられたダンボールを開き
本の中のマーキングを追ってみる
どこへも行きつけぬ私が
どうしても辿り着きたかった場所は
もうここにはないもの
夏のあいだ
震えながら鳴いていた
蝉がぽつりと落ちて
私の小さな庭に
夏の終わりを知らせる
やがて来る秋と冬のために
おぼつかない足取りで
もうここにはないものを
この部屋に置いて
歩き出すけれど
行き先も
帰り道も分からないから
どこまでも
どこまでも
もっと遠くへ
もっと遠くへと
歩んで行くしかないのだ
と
もうここにはないものは
もうどこにもないのだ
と
不意打ちの雨に打たれながら
もうここにはないけれど
深夜にそっと
静かに
未だ
私の内から漂い出るものがある