うみになる

誰もが歩くようでいて
立ち尽くす場所へと続いていく
雨に濡れないように水に飛び込み
さびしくないように人混みのなかへと紛れこむ
浅く沈む ゆっくりと
うみになる
コンビニで同じものを食べている人に
安心する
フランクロールの袋を裂く仕草に
日常の僅かな律動をみつけて
走り
走り
止まり
また走る
リアウィンドに流れた月と
深夜のAMラジオ放送
すべての交信の端切のような
ざらつきを耳に浸しながら
うみになる
やさしいせかいの綻びから
断崖に立つとき
ツェランの声は喉奥で震え
ヘルダーリンの詩句は砕けた波音にかわる
朔太郎の月明かりに目を細め
その空白にブランシェの沈黙を読む